千里の道も謂いて遥と為さず、数歩の地も謂いて近と為さず。凡そ所作あれば、その功は唐しからず、その報を望まず
天台大師(中国天台宗開祖。538-597)
千里の道も謂(い)いて遥(よう)と為さず、数歩の地も謂いて近と為さず。凡(およ)そ所作あれば、その功は唐(むな)しからず、その報を望まず。
千里の道だからといって遙か遠いと思ってはいけない。数歩の所だからといって近いと気を抜いてはいけない。行った分だけ報われるのが道理であるが、最初からその報いを期待してはいけない。
『摩訶止観』
天台大師智顗は、中国・陳隋時代の僧。『摩訶止観』は『法華玄義』『法華文句』と共に天台三大部に数えられ、中国仏教史上、最大かつ最も詳細な禅の観法の手引書と評価されている。
千里の道を歩む際、遠いと感じることはあってはならない。例え千里の旅であっても、一歩一歩進む中で、その距離は確実に縮まっていると理解すべきだ。また、数歩の距離だからといって油断してはいけない。目の前の小さな道でも、道のりは長く続くものであり、慎重に進まなければ思わぬ困難に直面することもある。
歩くことに意味があり、行動を起こすことで得られる経験は決して無駄ではない。しかし、その頑張りに対する結果をあらかじめ求めることは避けなければならない。真の進歩は、求めることなく行動する中から生まれるものであり、心がけと努力が伴ってこそ、真の成果に結びつくのだ。
私たちの修行や日常の行動において、この教えは常に心に留めておくべきである。何も考えずに行動するのではなく、意識を持って一歩一歩進むことが重要である。その一歩が千里の道につながり、大きな成果を得ることになるだろう。その際、報われるべきものが得られなくても、過程そのものに意味と価値があることを忘れてはいけない。
道を歩む者にとって、目の前のことを一つ一つ丁寧に行うことが何よりも大切であり、将来の結果を心配するあまり、現在の行動に疎かになってはいけない。すべての行いは、今を生きることで初めて実を結ぶのだ。千里の旅は、今日の一歩から始まるのである。