曲直用に中って損することなく、賢愚器に随って績有り

弘法大師空海(真言宗開祖。774-835/真済撰)

原文

曲直用に中(あた)って損することなく、賢愚器(うつわ)に随って績(しょく)有り。

意訳

巧みな大工は、曲がった木も真っすぐな木も、木の性質を損なうことなく適所に使いこなして家を建てる。聖君は人の登用に当たって、賢い者も愚かな者も能力に応じて、それぞれ功績が立てられるように配置して活用する。

出典

『性霊集』

解説

804年~834年にかけての弘法大師空海の詩文約111首を、弟子・真済(しんぜい)が全10巻にまとめたもので、密教関係の内容を知る上で貴重な史料でもある。

妙機禅師

巧みな大工は、様々な木材を扱います。曲がった木も、真っ直ぐな木も、自らの特性を理解し、それに応じた適切な使い方を見出すことで、美しい家を築き上げます。これはただの技術ではなく、深い洞察力と柔軟な思考によるものです。大工は木の「性質」を無視せず、むしろその特性を活かして、最良の結果を得ようとします。この姿勢は、私たちの生き方にも応用できる教えです。

同様に、良き指導者や聖君も、周囲の人々を理解し、それぞれの特性や能力に基づいて配置し活用します。一見しっかりとした者も、また一見愚かな者も、平等にその存在意義があると認識しているからこそ、社会全体が調和を保つことができるのです。指導者は、何が得意か、何が不得意かを見極め、個々の役割に最適な環境を提供することで、全体の子孫繁栄を促すことが求められています。

この教訓は、私たちの日常生活や人間関係にも適用可能です。自分自身や周囲の他者を受け入れ、その特性に応じて関わることは、調和の取れた関係づくりに不可欠です。また、他者に対して偏見を持たず、彼らの持つ独自の価値を尊重することがより良いコミュニケーションにつながります。

大工が曲がった木をも大切に扱うように、私たちも他者の存在や役割を大切にし、一人一人が持つ可能性を引き出す生き方を心がけるべきです。そうすることで、私たちの社会はより豊かで、調和に満ちた場となるでしょう。

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