道心の中に衣食あり。衣食の中に道心なし
伝教大師最澄(天台宗宗祖。767-822/別当大師光定撰)
道心の中に衣食(えじき)あり。衣食の中に道心なし。
道を求め道を弘める心があれば、必要最小限の衣食(住)は自然に具わってくる。反対に、衣食をむさぼり求める生活からは、決して道心は湧いてこない。
『伝述一心戒文』
宗祖伝教大師の大乗戒壇独立の経過と真意を明らかにした書物で、別当大師光定(779-858)の編著。光定は、「比叡山の大黒さん」としても信仰され、伝教大師をたすけて菩薩道の教団づくりに奔走した。本書は比叡山の戒壇独立運動の実情を細かに記し、比叡山草創の頃の困難な状況もわかる。
道を求めて精進する心があれば、生活に必須な衣食(住)も自然と整っていく。これは、弘法大師の教えとして伝わるものだ。人は、心の中に高潔な志を持ち、自らの行いを正すことで、自然と必要なものが揃うという理を悟るべきだ。一方で、物質的な豊かさを追い求めるだけの生活からは、決して心の平静や豊かさは訪れない。むしろ、外界の欲望に振り回される日々からは、本当の満足感や精神的な成長は得られない。
この教えは、比叡山の大乗戒壇独立を巡る歴史を背景に語られる。比叡山の創立にあたって、伝教大師を助けた光定の編著によって、その過程が詳しく記されている。光定は、「比叡山の大黒さん」として知られ、伝教大師と共に困難に立ち向かい、菩薩道の教団を築き上げた。その中で、彼らがどのようにして精神的な道を歩む中で基本的な生活を維持していったか、また逆に物質的な豊かさがいかに精神的な成長を阻害するかが描かれている。
この教えは、現代に生きる私たちにも深い意味を持つ。多忙な日常生活の中で、物質的な豊かさや快適さを追求することがしばしば求められる。しかし、心の豊かさを忘れず、道を求めて精進することが真の充実感と生きる意義をもたらすのである。道心を持ち、それに従って生きることで、必要なものは自然と揃い、心の平穏が得られるのだと悟りたい。